「雪が降らないんだ……ですか」
ゼクスたちが住まうことになった南領は冬でも温暖である。新しい年を迎える今も変わらないその暖かさに、不思議がるテアが可愛いと思う。
「”療養中の身”だからな。しばらく、この別荘でひっそりと新年を迎えることになるが……」
苦笑しながらゼクスが口を開くと、テアはまた小首を傾げた。
「でも、人がいっぱいの夜会に出なくて良いんだよね……です? 俺、ゼクスと二人きりなんて……嬉しいなあ」
そう言って、テアが照れ笑いをしてみせた。
南領に来てからというもの、テアは変わったと思う。
テアは稀少なアストレア族の生き残りで、そのせいでゼクスに出会うまでずっと酷い道を歩いてきたのだろう。ゼクスが王の影として生きていた頃も、よく怒ったり泣いたりしていたけれど、ここに来てからはよく笑っている。
――それが、本来のテアだったのかとようやく気付かされた。
以前住んでいた屋敷のものよりも、ずっと小さな暖炉の前で。のんびりと二人で他愛もない話をしたり、テアが楽器を奏でるのを聴いているうちに、もう空が白み始めてきた。
「これからずっと、何回でも」
ふと、テアがそう呟きながら立ち上がると、窓辺へと近づいていった。
「……何回でも?」
すべてに光をもたらす朝陽が、窓を覗こうと近づいたテアのことも柔らかく照らし始める。
「ゼクスと新しい年を迎えて、これからもずっと一緒に積み重ねていけるんだと思うと、すごいなあって。嬉しい」
そう続けて、テアがまたはにかみながら笑った。
「……そろそろ、寝ようか」
「明るいのに寝る……ですか?」
使用人たちも休んでいる今日くらいは。ニコニコと可愛らしい伴侶を寝台の中に引っ張り込んだままでも、怒られまい。
ゼクスの思惑をいまだ知らないテアを抱え上げると――なんの抵抗もなくもたれかかってきたその温もりに、ゼクスは耐え切れず強く抱きしめて――一日は始まりと共に、ゆっくりと終わっていくのだった。
Fin.